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ニコニコ家族

2011/02/16(水)

ニコニコ家族①

 そのころ待ち合わせ場所に急いでいる彼は彼女との電話がうまく進まない。

 「ごめん。もうすぐだから。チッ。ヨロシク。」

 「何・・・。何それ。逆切れ?」

 「ごめん。ちょっと・・・。」

 「格好つけてるの。どうゆうつもり。誰かいるのね?」

 「違うって。さっきから・・・もーヨロシク・・・。」

 「よろしく?よろしくって何?」
 「前の車がよろしくで・・・。こいつが・・。」
 「前の・・。はあ?。」

 「ごめん。ちょっと今・・・。」
 「何やってるのあんた?」
 「もうすぐだから。ごめん。いったん切るね。」

 彼は少しでも早く待ち合わせ場所に行くために運転に集中することにした。

 「このヨロシク相手では、気合を入れ直さなければ勝てない。」

 彼は悪い流れを断ち切るために、ヨロシクとの自然な離別を自分の運で導けることが出来る可能性に賭けてみることにした。彼は祈るような気持ちでニコニコファミリーカーについて走り続けた。

 しばらくすると交差点が見えてきた。

 「頼むから左に行くなよ・・・。行くなよ、行くなよ。・・・あぁ行くのかぁ。」

 交差点では無常にも彼の行きたい方向にニコニコファミリーカーはウインカーを点滅させてくれる。

 「何でそっちに行く!・・・。俺って何かした?ヨロシク!」 

 彼にはガラス越しのにぎやかそうな子どもたちの笑い声が、至近距離で確認できるのではないかと思えるほど前かがみになっていた。気持ちが前に行けば行くほどにぎやかな様子が伝わり、いらだちをよりいっそうかき立てていくのだった。

 しばらく行くと、左手にアパートの駐車場が見えてきた。その駐車場から一台、本道りへ左折しようとしている車が見える。ニコニコファミリーカーはこの車に気づくとスムーズにスピードを緩めていった。この瞬間、接近していた彼は『ハッ』と驚き、急ブレーキを踏んだ。

 「アブねー・・・。何。何なの。」

 前を見ると、左折しようとしている車に、笑顔で合図を贈っているニコニコ家族のお父さんが見えた。それと同時にこのニコニコファミリーカーの前方のはるか彼方には一台も車らしきものがなく、貸しきり道路のように見晴らしが良い状態にまで改良されてた。

 「空いてるじゃねーかーヨロシク!(怒)・・・ちょっとは周りの車のスピードに合わせろよ!・・・なー(怒)」

 彼はこの車を抜き去ってしまいたい心境だったが、片側一車線で追い抜き禁止。心も体もヘトヘトに疲れて、未だスッキリ感を味わえないままだ。

 「もーいいー!こいつはどかす。」

 彼は思い切り接近して、パッシングとアクセルを空吹かしした。

 「ブーンブーンブーンブーン。」

 彼は苛立ちで汗まみれになってしまったハンドルを握り締め、アクセルに思いを込めて届けとばかりに踏み倒した。

 その頃ニコニコ家族の車中では、宇宙戦士ウルサイナーの曲がかかっていて、今日最高の盛り上がりを迎えていた。振り付けしながら主題歌を歌っている子どもたちに、手拍子をしている助手席のお母さん。安全運転がモットーのお父さんは、みんなの歌声を聞きながら終始ご機嫌。この幸せな空間に邪気など入り込めるはずがなく、ニコニコ家族のための時間がゆっくりと流れていた。ただ運がいいのか悪いのか、安全運転がモットーのお父さんの欠点はバックミラーをほとんど見たことがないことだった。

第五話終   ・・・続く